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もしも、人生の答えが『えらぶブルー』にあるとしたら ~第二章・新卒編~

都会の極々ありふれた中流家庭で育った、極々ありふれた一人の壮年が
人生の岐路に立たされたとき
一筋の光に導かれて、聞いたこともない離島に辿り着きました。

普通に学校を卒業して、普通に就職をして、普通に家庭を持って、普通に年を取っていく。
普通が当たり前だと思っていたけれど、
挫折をしたり、辛酸を舐めたりしたとき、ときどき思うことがあります。
「あれ?」
「普通ってなんだろう?」
「幸せな人生ってなんだろう?」

学生時代、国語の授業で習った小説に、こんな一節がありました。
「人生は何事をも為さぬには余りに長いが、何事かを為すには余りに短い」

これは、「何事をも為そうとしてなかった」一人の壮年が、「何事かを為す」ために行動し、
少年のころには想像もしなかった、
未知の離島『沖永良部島』で暮らし始めるまでの経緯のお話です。

※過去の記事は、関連プロジェクト一覧からご覧ください。

『Webマーケティング』と『ゴキブリ』

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「ここがうちの事務所!良い場所だろ?」

ジョーに案内された場所は、町役場のそば、町営の2階建ての建物でした。
入り口の引き戸を開けると、学校の教室ほどの開けた室内に、大きめのデスクが1つ。
その上には、Macbook、プリンタと、充電ケーブルの刺さったポケットWiFiが置いてありました。
デスクの背後には、山のように積み上げられた書類、書類、書類。

「なんかここんとこネットが遅くてさー。」

壮年の島での最初の仕事は、この教室に無線LANを開通するところから始まりました。

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大学を卒業した3月の終わり、青年は実家を出て、都内で一人暮らしを始めました。
青年が新卒で内定をもらったのは、都内の『Webマーケティング会社』。
入社の数ヶ月前に、データベースやら情報処理やらの教本を支給され、
社会人スタートを駆け抜ける準備は万端でした。

4月某日、初出社の日、雑居ビルのエレベーターを降りてオフィスに入ると、
鳴りやまない着信音の中、10~15名ほどの従業員全員が、
それぞれ自身のデスクPCと向き合いながら、電話対応に追われていました。

「お電話ありがとうございます!スマートフォンの修理はこちらで承っております!」
「ブランド品の出張買取ですね!少々お待ちください!」
「お車の合鍵作成ですね!かしこまりました!」

青年を含めた3名の新入社員は、
着信音の嵐が吹き荒れるオフィスを通って、奥の社長室へ案内されました。

「これから新規に事業を始めるから、君たちにはそれを担当してもらう。」

新卒の3名が任されたのは、害虫駆除出張サービスの新規立ち上げ。
それぞれが主担当となる害虫の種類を告げられ、ホームページの構築を0から行うことになりました。

因みに青年の担当は『ゴキブリ』でした。

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2021年、町役場そばの建物の一室で発足した組合

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新卒の期待や希望が詰まった都内の1Rマンション

求人票なんてもう信じられない

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「またなんでこんななんもない島に来たの?」

全部積んだら天井に届くのではないかと思うほど山盛りの書類を、
一枚一枚整理してファイリングしている最中、
事務所に訪れていた町役場の職員と雑談していると、
外回りに出ていたジョーが、にやつきながら戻ってきました。

「いやぁ、ホームページ作ってくれてありがとう!」
「『マルチワーカー』としての最初の派遣先は、『花農家』だ!」

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言われてみると、就活中に某サイトで見た求人票には、
【システム運用】【SEO対策】【LP構築】と、当時ITの知識などそれほどなかった青年にとっては
イケてそうな横文字が並んでいましたが、どれも具体的な業務内容や事業の詳細は書かれていませんでした。

近未来的なオフィスでスマートに仕事をする絵を描いていたはずが、
スマホ修理・ブラント品買取・合鍵作成・靴修理・水道修理などなど
この世のすべての出張サービスを総まとめにしたよろず屋会社で、
夜中までコールセンター業をしながら、素人クオリティのHPを作る。
そもそも求人票には『Webマーケティング部』としか記載がなく、
入社初日まで会社の事業について調べもしなかった青年の心身は、あっという間にくたびれていきました。

その日は、ある先輩社員が社長に相談を持ち掛けていました。
毎日夕方ごろになると、ポテチをつまみながら社長がオフィスに入ってきます。
いつも通り着信音が耳障りな部屋の中で、先輩社員は社長を引き留めました。

先輩「実はこの度、結婚することになりまして・・・」
社長「ふーん。」
先輩「式があるので、準備なども含めて数日有休をいただきたいのですが・・・」
社長「結婚とかするの仕事の邪魔だし、必要なくない?」

この会話を聞いた日の夜、青年は自宅の最寄のコンビニで筆ペンと便箋を買い、退職願を書きました。

社長室に退職願を渡しに行ったとき、
壁際に陳列された、おそらく一度も履いてないであろう大量のナイキのスニーカーに対して、
腹立たしさと虚無感の混じったよくわからない感情が沸いて以来、
青年はナイキのスニーカーを買わなくなりました。ナイキは何も悪くないのですが。

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島の畑から望む青い海は美しい

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ビルの夜景が美しくなるほど、青年の心はくたびれていく

『大人』の定義

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「ワタシタチ オカネ カセギニキタ」
「ムスコ リュウガク アメリカノ ダイガク イキタイ」

真冬のビニールハウスの中で汗をかきながら百合の花を収穫している最中、
ベトナム人技能実習生の年上女性に見せてもらった家族写真には、
高級住宅街の庭先に停まったベンツの前でほほ笑む家族が写っていました。

「カゴシマ ノウギョウ ツカレルカラ ツギハ トウキョウ イク」

休憩時間に技能実習生たちが分けてくれた缶コーヒーを飲みながら、壮年は
自身の心の中に積み上げられたいろいろな偏見、人生観、過去のストレスやプライドが、
都会で擦り減らされた精神諸共、真っ白に上塗りされていくのを感じました。

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家族に退職を報告したのは、すべてが終わった後でした。
青年の父は大学院を出てから定年まで一切転職せず勤めあげた人間で、
青年の行動の意図など全く理解できない様子でした。

終身雇用の模範的な家庭で育った青年は、
新卒1年経たずに退職をした人間など社会的に〇んだも同然とぐらい悲観的になり、
退職後数ヶ月は、食い繋ぐための飲食店アルバイトやカラオケ店アルバイトを変えては飛んでの繰り返しでした。

そんな青年が次に選んだのは、『予備校の教務課職員』でした。
昔流行った「今でしょ!」みたいな花形教師ではなく、
進路指導や運営の雑務などを行いながら個別指導も行う、予備校のチューター+αのような業務内容です。

青年の担当は、医歯薬農獣医系学部志望の卒業生(浪人生)クラス。
卒業生クラスということもあり、地方から上京し寮生活を送る生徒も多数通っている他、志望学部の特性上、多浪生や再受験の年配者など多様な生徒が在籍している校舎でした。

~「もう6年以上経っても医者の道を諦められない息子に、どうにか別の選択肢を与えてやってくれ。」~

~「あんなに優秀なうちの娘が寮に引きこもっているなんて、悪いのはあんたたち学校だろ!」~

~「僕は失敗しないので大丈夫です、面談とか時間の無駄なのでいらないです。」~

100名以上の生徒の進路を見ていく中で青年は、生徒たちの環境や将来と自身の現在を重ね合わせ、
『社会人とは何か』、『大人とは何か』について自問自答していくのでした。

もしも、人生の答えが『えらぶブルー』にあるとしたら ~第三章・社会の正論編~ へ続く

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母国から遠く離れた島でも、人生を楽しむことを忘れない
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青年が社会的に〇んでいく中、友人たちは次のステップへ進んでいく
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